「んーーー」

悩ましげな声を上げるこの国の次期女王、アイリーンはしばらく考えたあと、笑顔で相手に

「却下」

無慈悲な言葉を告げた。

「そんなっ」

「この案じゃコストが掛かり過ぎるわ。どうしても実現させたいならもう少し考えなさい」

雑魚とも言える相手が帰ったあとのアイリーンの瞳は書類に向けられている。

眉間に皺を寄せ、考える姿まで美しく様になっている。




―――バン!

「アイリーン!」「お嬢!」

勢い良く扉を開けて来た南北の跡取りたちに、鬱陶しげに瞳を向けるとまた鬱陶しそうに声を上げる。

「何よ、二人揃って」

「これは北に任せると言っただろう!」

「いーや、南って言ったよな!お嬢!」

「だいたい、タイロン!お前は!」

「んだとスチュアート!」

「うるっさいわよ!その件なら南北両方に任せるって言ったわ!」

いつもの言い合いに普段からつり目がちなアイリーンの瞳が更につり上がっている。

言い合いにバッサリと終止符を打ったアイリーンは、それまで見ていた資料の一部を取るとあの家庭教師が居るであろう部屋に向かった。




―――コンコン

「ライル」

「お嬢様、どうなさいました?」

「この資料、ここの数値が変に跳ね上がってるんだけど」

「おや、本当ですね。確かこの責任者は…………」

くるくると、真剣な瞳が資料と家庭教師の間を行き来する。


あの瞳を抉り取ってしまえば彼女は、

瞳に映す価値もない雑魚も、

大量の資料も、

幼馴染だという跡取りたちも、

幼い頃から世話になっているという家庭教師も、

何も見ないで――見れなくなる。

それで、彼女が望まないものから解放されるだろうか。

あの美しい深い蒼の瞳から不快なもの全てが消えるだろうか。

ああ、でもそうしたら彼女は僕のことも見てくれないのか。

あの美しい深い蒼の瞳から僕の姿も消えてしまうのか。


「カーティス」

周りに人が居ないことを確認して、アイリーンの前に出る。

「どうかしましたか?アイリーン」

「なんでもないわ。ただ仕事も終わったし、カーティスに会いたかっただけ」

ずっと何かを見ていた瞳、今は僕だけを映している。

「本当、いつになってもあんたの気配は読めないわ。これでも鍛錬してるのに」

「本職のそれも元トップですからね。そう易々と見破られては困りますよ」

「それもそうね。気配は読めないけど、居ることは分かってるから安心していられるわ」

優しく微笑む瞳は吸い込まれそうなくらい深い蒼をしている。


瞳を抉ることはできればしたくないけど、

その瞳に僕以外の何も映らなければいいのに。

僕だけを、映せばいいのに。






〜END〜


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カーティスの独占欲。まず抉るって発想が怖いね。そして最悪実行しそうだ。

PSPのアラロス、何で絵変えたんだろ。前のままが良かったのに。

しかし石田さんのフルボイス&追加シナリオ…!!

なんかキャラがいまいち微妙な気がする;;

てゆーか、カーティスとライルの口調にほぼ差がないことに気付いた;

今回、タイトルを『確かに恋だった』様から使わせて頂きました。